「なんとかならないか。生け捕って山に帰すとか…」と、私は思わず、聞き返した。だが… 山に帰しても、また戻ってきて人を襲うと言い返されてしまった ── それは、8月11日のこと。「岡本の、天上川のイノシシを全部駆除することにしました」と、神戸市の産業振興局から連絡を受けたのだ。
「…全部殺すのか」と、言葉に詰まりながら尋ねると、「ハイ。全部で15〜16頭はいると思います」という。
駆除するのは
- 人を襲うから。特にビニール袋を持っている方
- 河床の工事をする際に、邪魔になるから
- 衛生的に悪いから
の三点が大きな理由らしい。
▲ 天上川の猪親子(資料画像)
私は、野生動物と人間の共存の姿を見るのが好きで、天上川のイノシシの親子が懸命に生きる姿に日々、励まされてきた。何か救う手だては無いのか…。県のあらゆる部署に電話を入れ、引き取ってくれないかとお願いしたが、ダメだった。
▲市民に親しまれていた猪たち(資料画像)
最後に行きついたのは、兵庫県森林動物研究センターで、副所長と和やかに話しができた。副所長は、この岡本の天上川の件を知っている様子で、丁寧に説明して下さったが、私は、恐らく神戸市がすでに相談しているのだと推察した。私は、副所長に「人間が、ゴルフ場や宅地開発で野生動物の棲み処をなくし、イノシシが已むを得ず人間界に入ってきて、餌付けをされ、殺されて行く。もともと臆病で人間を恐れていたのが、餌付けで、人間に対しての要求型に変化させてしまった。人間の責任は重い」と言った。
副所長は、「まったくその通りです」と応え、しかし「山に帰しても、食べて行けない」と諭してくださった。
▲ウリ坊たち(資料画像)
岡本周辺で配布されていた、
餌付け禁止を呼びかけたチラシ。
22日には、イノシシへのお詫びとお別れに一人、天上川へ行った。ちょうど、一組の父子が川床を覗き込んで「今日はいない…」と父が子に告げている。聞くと、姫路から見に来られたと仰る。事情を話すと、残念がられた。名刺をお渡しすると、「姫路にはこんな市会議員はいないなぁ…」。自分でもそう思っているが、私はやはり変わった市会議員なのだろう。
9月11日には、「いよいよ16日に処分する」との報を受けた。私は、「ご苦労様」と申し上げた。かくて、天上川のイノシシと市民の長い歴史は、明日、9月16日をもってひとまず、終わりとなる。だが、野生動物と人間との共存や、生物多様性といった大命題は、なくなることなく続く。より良い解決手段はないか、今回の処分を教訓に、考え続けて行かなければと思っている。
▲市民に親しまれていた天上川の猪たち(資料画像)