父親が
「私と一緒に行こうよ。さぁ立って、私と行こうよ。この前行くと言ってくれたから、みんなで来てるんよ。一緒に行こうよ。嫌かも知れないけど、私は行った方が良いと思うよ。嫌? そう言わずに行こうよ。ちょっと、毛布から顔を見せてよ。そのままやとしんどいやろ。行かへん? そんな事言わんと、行こうよ。B先生ご存知でしょ? ちょっと行こうよ」と、優しく心のこもった説得を続けること、約50分。
外で待っている私にも、会話が聞こえてくる…
「この前行くと言ってくれたじゃない。お願いだから、お父さんの車で行こうよ。その毛布のままで良いから行こうよ。咳も出てるし、先生に見てもらおうよ」と、区職員は説得を続けてくれていた。私は、涙が出てきた。必死の区職員の努力。父親や祖母の苦しみ。本人もさぞや、苦しいのだろう。
1時間半を越えた頃、区職員は優しく
「A君、ごめんやけど、一緒に行くから」の声と共に、物音が聞こえてきた。外からは分からなかったが、きっと身体に手を触れ、強引に引っ張りだす作業に入ったのだろう。父親の会社の職員さんに助けを求められ、私も入って、青年を引っ張りだした。
私はそこで、A君との初めて対面したが、まるで某宗教の教祖のよう。顔中から毛がボウボウ。ランニングシャツで、臭いがキツイ。必死にベッドにしがみつくやせ細った彼の手を私と区職員で外し、秘書と4人がかりで、何とか部屋から運び出した。
その間、区職員は
「ごめんな。これもA君のためなんだよ」と語り続けていた。区職員もきっと泣いているのだろう、声が変わっている。
▲一路西へ
「みんなA君が好きでやっているんだよ。頑張ってみんなで行こうよ」と言葉が出た。お父さんの車に乗って、区職員がA君のそばに乗り、父親が前に座って出発。私は後を追い、一路西へ。病院に着くと、職員の素早い手続きで入院。区職員がこんなにやってくれていることに、心から「ありがとう、ありがとう」と感謝したのだった。