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2010年 01月 19日 火曜日

10年来、何回も話に聞く「昌冨すし」。店主が粋で、腕が良い、その上に日本酒が分かる、福井でも一・二を争うお寿司屋さんだそうだ。一年に一回は本当の日本酒好きが集まるという。震災15年の節目を迎える心の整理がついていた私は、食通のKさんのお誘いに乗ることにした。

久しぶりに雪景色も見たければ、美味しい魚も頂きたい。ただ… 不幸にも私はお酒が飲めず、粕汁で酔ってしまう。それでも、Kさんと訪ねてみたかった。ボランティアのAさんに無理を言って同行して貰ったのは、女性がいる方が楽しいから。午後、飛び乗ったJR大阪発のサンダーバードにはKさんがお連れになったお2人がおられ、計5人でのグルメ日帰り旅行と相なった。

車窓から見る真っ白な平野と山が、幻想の世界へと導く。福井駅では冷たい小雪が顔に降り、寒風が雪国を感じさせた。昌冨すしの主(あるじ)は、Kさんの電話に「日本酒をビンごと雪に突っ込んでいます」と、漏れ聞こえるほど威勢の良い声。食通・日本酒通を迎えるとあって、主、力が入っているなと、分かる。


▲皆さんでお料理を楽しむ
アーケードを抜け、歩いて10分。「へぇ〜、これが10年間聞かされてきた昌冨すしか」と、ガックリするような店構えのお粗末さ。庭があって門松が飾られているような立派な店構えを想像していたのだが、まるでバラックだ。主と夫人の二人でやっておられる小さなお店。いつもそうなさるように、我々5人の貸し切りにするべく主がさっさとのれんを仕舞うと、今日の日のために如何にしてネタを用意されたのか、語りだされた ─ それで、主はKさんが好きで一年に一回待っているのだと分かった。

まず出されたのは、8kgもの天然物、寒ブリの刺身。それも、醤油をつけず、わさびを巻いて手で食べろと仰る。言われた通りしてみると、実にうまい。そこで、Kさんがあらかじめ送っておられた古酒、月桂冠の2006年11月金賞受賞酒の封を切ると、持参した8種の猪口を出して、一つ一つの猪口で酒を呑みだした。私は、横でお茶である。猪口にもいろいろあって、皆さん「川瀬 忍の青磁盃の唇に当たる触覚と、形の良さ。一方また、錫器で冷酒がそれぞれの良さ、面白さを奏でる。それを悦に入って楽しんでまんねん」と仰る。私は「うん〜」と、その深い蘊蓄にうなるばかり。


▲これがまた旨かった
次に出てきたのは、ブリのたたき。これがまた、うまい。主の言われるまま食べるのが、一番。続いて、110kgのマグロの一番うまいトロを網焼きにし、わさびまみれにしたもの。舌に置いたそのままで、とけるように柔らかく、ジューシーな味が伝わってくる。

Kさんが菊正宗酒造の新酒の嘉宝を出して封を切ると、また猪口が並ぶ。今度は、猪口のここで飲むとうまいといった講釈が始まった。ふと見ると、Kさんのご同行のKKさんも、加古川の宝殿から鞄に詰めて、猪口を10個以上持って来られている。猪口を変え、いろいろ味わっておられるのだ。

食通・酒通この上なし。料理だけで酒のたしなめない私も、この店は構えでなく、主の腕と心意気が店の看板だと、思い知らされたのだった。そんな、久しぶりの贅沢をしたグルメ旅の話の続きは、また明日。