▲紳士的かつ真剣な話し合い
パルモア側から、三宅理事長・龍見院長・木村副院長、若宮病院側からは名方理事長・大橋院長・増田事務部長の6人。さらに、東灘区医師会及び関連医師会を合わせて約60〜70人が集まり、真剣な話し合いが行われた。
主な質問と回答内容は、以下の通り。
- 移転をしなければならない理由は?
- 両院とも手狭になったことと、老朽化したこと
- 移転先を東灘区に選択した理由は?
- 移転先について、初めはポートアイランドを想定していたが、借地が困難であった。そこで探していたところ、東灘区で借地できる適当な土地があった
- 永年 (約30年〜50年間) 診療をされてきた地元の地域の住民や患者さんへの、責任と対応策について
- (答えが無かったと思う)
- 2病院の統合についての問題点は解決されているのか?
- 今協力関係を模索中で、まだ統合に至っていない
- JR西日本子会社との交渉の進捗状況 及び 新病院の青写真
- 未だ契約に至っていない
- 統合・移転についての現スタッッフトのコンセンサスは?
- これから内部の調整を行っていく
「我々は、経営圧迫されるだけで反対しているのではない。パルモアが来て、東灘区民にとってどれだけの医療レベルが上がり、救急 ─ 例えば3次救急を行えるとか、開業医のバックアップシステムを備えるといったことが、今のところ無いではないか。と反論。パルモア病院側は、
例えば、妊娠された患者さんが妊娠33週で胎児が1500g以下の場合、危険率が高いので、他の病院へ送る方針だという。それなら、現在の東灘区・灘区の開業医と変わらない。せめて、地元の開業医の助けになったりすることができなければ、意味がない。全く産科医院の無い長田区・兵庫区で開業してあげれば、長田・兵庫区の市民は助かるのではないか」
「現在1000の分娩の内、約50%は東灘区・灘区の方々であるので、我々が東灘区に来ても共存共栄できる。小児科を含め、こちらに来ればスタッフを整えて、東灘区医療に役立つつもりである」と答えたが、
「スタッフを揃えて頑張ると言っても、どこも医師不足であり、期待できないのではないか。パルモアさんはとりあえず患者が多い所に来て、自己の病院の建て直しをする意図ではないか。このままでは、東灘区に進出されても、市民や我々の為に医療的恩恵はほとんどないに等しい」と再反論されていた。
ある東灘区の大きい病院の部長からは、「私の病院が現在やっている医療レベルと、パルモアがこちらに来てできる医療レベルの差を教えて下さい」との質問があった。パルモア側が「私が京都でやったことは…」と答えてしまい、「京都と違います。ここ東灘区で何をして下さろうとしているのですか」と、突っ込まれる一幕も。
後で聞けば、パルモア側の副院長は医者ではなく、病院経営立て直しの辣腕家で、事務系統の方だそうだ。パルモアの三宅理事長は命を預かる方らしく、実に誠実に答えようとする真摯な姿で、あれなら多分、医師仲間の気持ちも感じられただろうと思ったのだが。
約2時間議論が続いた頃、ある有名な産科医の院長がおもむろに立ち上がり、
「パルモアさんも、もっと他の場所を探して、本当に市民の役に立つ病院として経営されたらどうですか。パルモアの名前があれば、皆様来て下さいますよ。今、東灘区・灘区の医療は上手くいっています。他に歓迎して下さる所は、あると思いますよ」と発言。大きな拍手が起こった。
私は悲しかった。こんな知的で穏やかで常識的な業界に、まるで仕事師のような方が肩書きを付けてくるのか。今までの歴史も知らないだろうし、震災で苦労して下さった医師のことを、どれだけ知っているのか。住民のマンション建設反対に対抗して、ゼネコンが雇い入れる住民対策用コンサルタントのシステムが、この世界にまで来てしまった。なるほど、医者では経営は下手なのかも知れない。だが、福祉と医療の分野だけは、経営がすべてではない世界があって良いのではないか。
好きなドクターの車に便乗を許された帰路の車中、川島龍一会長と話し合った。その話の中で会長から依頼されたある件については、すぐ動くことにした。2時間黙って議論を聞いていた川島会長の悲しみが、伝わってきた。会長は常に「医療に市場原理を入れてはいけない」と言っている。彼は、何かを見極めようとしている。