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2022年 04月 26日 火曜日

良い板場、板前さんがいなくならないように、味の文化を守らなければならない。そんなことを、二人で語り続けたのは… 菊正宗酒造株式会社の嘉納毅人会長との電話でのこと。甲南大学の同窓生で、同学年なので、もう半世紀以上もお世話になっている。

料亭のおかみとの会話の中で「うちの店では、灘の酒『菊正』を使っています」と言われたのは、古い仲間と、「割り勘で、お座敷遊びでもしようか」と盛り上がり、40年ぶりに同窓生四人で京都へ行った、先週のこと。そう聞いて嬉しくなっのだが、その後、たまたまある会合で、嘉納会長にお会いしたので、そのことをお話しすると、とても喜んでいただけた。「店名を知らせてください」と言われたので、後日お知らせした、そのお礼の電話を頂戴したのだ。

その電話で、「この頃は、老舗の料亭やお茶屋さんが突然無くなる」という話になった。理由の一つは、相続・譲渡にまつわる税制度。二つには、後継者不在。しかし一方で、料理学校で鍛えた優秀な人材もいれば、料亭で学んだ料理人もいる。つまり、継承がうまくいっていないのである。例えば20年前、大阪の十三で立派な老舗の大衆料亭が突然なくなった。相続税対策で売らねばならなかったらしい。

「こればかりは、私ごとき者にはどうにもならない問題です」と答えると、「そうだろうが、日本の文化としてもったいない」と仰る。そこで、「国や県、あるいは市が、その料亭を買い上げて、次の人材にチャンスを与えてはどうでしょう」と申し上げると、会長は「そうしても、うまくいくかどうか…。大切な事は、その店の味を伝承できるか。そこが問題なんだよ」と仰った。それぞれのお客様の好みを知り、さらにその店の味を確保する。それができなければ、やがて店は潰れる、と。さすが食通の会長、と思った。

私も料理屋の長男に生まれたが、確かに、よく初代の安井幸太郎が『料理は、イキのいい魚の見分け方がまず第一。第二は、「店の味はお客さんから学べ」だ』と言っていたのを、70年ぶりに思い出した。味付けとは、本当に難しいものなのだ。

そうなると、優れた板場が老舗の料亭に早くから入って、その店のお客を知りつくして継承しなければならない。この部分には、行政は入り込めない。常連客が自分の好みの味を教えてくれる、という面もあるのだし、やはり、昔ながらで、修業を積んでいく「包丁一本さらしに巻いて」の世界がいいのかもしれない、と思った。しかしながら、この世界の合理化は難しく、さらに気を付けていかなければ、コロナ禍によって、板場の世界も維持できなくなるのかもしれない。

話が弾んで約30分、その他に、会長が守った菰樽づくりの話や、鏡開きの話などになったが、研究熱心な会長との会話は楽しく、たいへん勉強になった。長くなったので、「電話ではなく、また会って話しましょう」と切ったが、なにか元気を頂いたような、そんな気持ちになった。又の機会を、楽しみにしていたい。