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2017年 01月 20日 金曜日

…そう言えば、それ以後も何かと理由をつけて事務所に来ておられる。事務所が閉まっていた時も諦めず、何回も来られる。きっと… お淋しいのだろうと思ったのは、とある陳情の主のこと。議員という仕事をしていると、いろいろな陳情があるが、中でもよくある陳情の一つが、バスの中の事故や運転手とのトラブルだ。

今回のケースは、70歳のA子さん。バスの急発進で、杖を持ったままバスの椅子に当たり、打撲。それについて補償してほしいとのことだった。

乗ったバスは時刻で直ぐに特定できたので、交通局との相談になった。私は決して補償を求めず、A子さんの意志を伝えて、事実を確認した。車載カメラの録画をチェックした当局からは「よろついてはおられるが、当たっていないし、運転手に文句は言っていない。事実無根」とのことだった。
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▲ 阪神御影駅北バスターミナル (イメージ/内容と直接の関係はありません)

しかし、A子さんは誰かに知恵をつけられたのか、行きつけの医師の診断書と鍼灸院の治療の領収書を持参された。そこで、私はビデオを示してバッサリと切り捨てるように進言した。当局は何回も足を運んで、運転手に気をつけるように注意したとか、常に安全に気を配っているとか、A子さんを傷つけまいと丁寧に対応してくださった。だが、保険屋とも相談すると言ったために、逆に当局が認めたと思い込み、領収書を集め始められた。

まわりの誰かが更にたきつけたのだろうか、私の事務所にそれらを持参された。ボランティアの足立が丁寧に対応して話を伺い、お慰めし、シップ薬を差し上げもした。ところが、A子さんはますますエスカレート。とうとう、「安井ではダメ。警察に行く。裁判を起こす」と言い始められた。当局もついに行き詰まり、冷静なA子さんの兄上の立ち合いのもと、録画映像を開示することになった。

兄上はA子さんに、「また嘘をついた」と叱責された。私の事務所においでて、お詫びもされた。その時、A子さんは子供の時から嘘つきで、どこでも相手にしてもらえず、未だに独身で、兄弟の中で最大の困り者だったとご説明下さった。見るからに立派な人格者で、私はきっとそうなのだと納得がいったが、ボランティアの足立がポツリと言った。

「A子さんがかわいそう。きっと、子供の頃から嘘つきのレッテルをはられて、そうすることで自分の存在を示すような性格になってしまったと思う。だって、A子さんは普通の人で、事務所が多忙だったらすぐに帰る。可愛い人なのに、ずっと嘘つきのレッテルを貼られ、誰も親身になって話を聞いてあげなかった。誰かが彼女を信じてあげていたら、ここまで来なかった」

足立は「いつでも来ていいよ!」と声をかけている。その言葉が、彼女には生きる糧になっているのかも知れない。時には3〜5分で帰られるA子さんに、私は「死ぬまで来て下さい」と思った。